即お買い上げ。止めるとむきになって『私はいつも即決だから』と言って即買いされておりました」利紀はゴルフ、車、麻雀など多趣味の男だったが、その中でも乗馬は好きだった。いつから乗馬を始めたのか。それを指南した一人は久留米大学医学部の同級生だった熊本市の末藤築一(八十三歳)だった。末藤は二十代後半頃から乗馬を始めていた。「阿蘇で乗馬でもしてみないか」末藤の誘いに土屋夫妻が応じた。夫妻は人馬一体となって、阿蘇の高原を風切りながら駆け抜けていく爽快感を味わった。宮崎に進出し、「土屋眼科」を立ち上げてまもなくの頃だった。末藤は笑いながら言った。「そのうち、馬を買ったりして私より乗馬がうまくなりました」なぜ、利紀は馬に惹かれたのか。「動物好きで、それも大きなものが好きだった」周辺の人はこう言った。大きいもの。自動車はアメリカ車のキャデラックなどで、飼い犬は大口時代から大型犬のシェパードだった。「馬はかわいい」確かにそれもある。加えて利紀が馬へ接近したのは故郷・栗野の風景だ。農耕、林業用の馬がいつもそばにいた。鞍もつけずに、裸馬に乗った少年時代。そういったことがまざまざとよみがえった。利紀は次のように回想している。「少年時代、近所は農家ばかりで農耕馬との出合いが多く、川で馬を洗ってそのあと家まで走らせなが75 第三章馬上編
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