【絆】土屋利紀の肖像
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七月H入院十四人、外来三百二十七人。八月H入院二十人、外来四百三十八人。患者数が急増するのは手術の成果だ。「手術をすると病院の信頼性が上がる」信頼性だけでなく、歩く広告塔にもなる。その手術の一つは斜視だ。斜視治療の目的は容姿をととのえる「整容」と、視力や両眼視機能などを改善させる「視機能向上」である。「これをすると、きれいになるから周りが『どこでしたの』と宣伝になる」二重まぶたへの手術も同様だ。一番多い手術が白内障の手術だった。「見えないものが見えるようになるから、宣伝効果は大きい」白内障手術の効果について作家、吉行淳之介は自らの白内障手術体験記を『人工水晶体』のタイトルでエッセイとして発表している。吉行が手術を受けたのは一九八四(昭和五十九)年である。右目は光しか見えない状態だった。約二十分の手術で視力は一・五まで回復した術後の様子を、驚きを持って次のように主閏いている。翌朝、眼を覚まし、手術したほうの右目だけを聞いてみると、部屋の中の様子がはっきりと分かった。乱視が出ているらしく、線が二重になったりしているが、あらためて不思議な気分になった。薄青い透明なガラスを透かして、天井や窓や椅子が視野に入って来るようで、やや、無機質な感じがした。第二章61 立志編

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