土屋利紀は生前、本の扱い方について周辺に厳命していた。「絶対に捨ててはいけない。本は宝物だから」現在、蔵書は自宅や病院などに分散されて保管されている。自宅の書棚に並ぶ古い本を一冊、取り出す。吉川英治の『三国志』だ。奥付けを見ると一九四七(昭和二十二)年の刊行だ。全十四巻の、約七十年前の本である。その本は栗野中学時代に購入したものだ。「上三人が女だったので、四番目の私は非常に大事にされ、わがままいっぱいに育ちました」利紀が語るように、勇満は甘い父親だった。目に入れても痛くない存在だった。欲しいものは買い与えた。小さな町では賀沢品ともいえるカメラ、野球のグラブ・:。本もそうだつた。「父はいろんな本を読ませてくれた。フロイトの本や森田精神療法で有名な森田正馬先生の本など」利紀は心理学の本を挙げているが、読みふけっていたのは『三国志』をはじめ『太閤記』「宮本武蔵』など歴史、時代小説だった。三国志の世界青雲編33 第一章
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