【絆】土屋利紀の肖像
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約四十日間の入院治療が必要だった。三十ほどベッドがあり、家族が患者に付き添った。自炊するため薪で火を起こし、煮炊きなどをした「先生(勇満)は無駄なおしゃべりをしない、物腰の柔らかな、静かな人でした」涼子は勇満の印象についてこのように語った。今でも鮮明に覚えている、忘れられないエピソードがある。「診療に使うガラス器具を割ってしまったのですが、先生は『大丈夫ですか。ケガをしていませんか』とミスした私を気遣ってくれました」涼子は遠い日の出来事をまるで昨日のことのように何度も繰り返し語るのだった。土屋眼科で働いていたときに、利紀の一つ上の山下洋(八十四歳)に見初められて結婚したこともあって、土屋眼科の記憶はより深く刻まれている。涼子栗野町の土屋眼科医院の前で、勇満(前列中央)と患者さん26

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