広大な庭園の中心に、幹周り百四十センチ、高さ十数メートルの古木が宮崎の青空に向けてそそり立っている。ありふれたイチョウやクスの木ではない。六月には数年に一回、赤い実をつけるヤマモモの大樹だ。共に人生を歩んできた妻の多恵子が二O一五年十月二十四日、七十四歳で急逝した。その後、土屋利紀は四百坪の敷地の中で一時期、一人で暮らした。天気のいい日には庭のテラスに置いた藤製のテーブルで、周辺の人が用意した朝食のご飯、味噌汁、卵焼きなどを口に運んだ。「朝陽を浴びることは宇宙の気を取り込むことだ」こう語っていた利紀は体調を崩して入院していたときも、病院の庭先にパンツ一枚で立ち、両腕を広げて全身に陽光を浴びていた。その姿を見た看護師の吉田千代美は「先生、先生」と言いながら、微笑みを添えて病室から飛び出したこともあった。利紀は、少年時代から精神世界、ヤマモモの巨木スピリチュアルな世界に関心が強かった。ヤマモモの木もまた、利18
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