僕が大口市からこの宮崎に越してきで、今年でちょうど五十年を迎える。そのとき五歳だった僕が見た景色は、新しい自宅のほかにわずか数件の家と、見渡す限りの平野に澄み渡る青空が広がっていた。まだ建築中の木造住宅のカンナ掛けをする木の匂いは、今でもはっきりと覚えている。父との思い出は大口時代に遡る。当時、母が何かの用事で、私たち子どもを残して都城の実家に帰ったことがある。そのとき、私と父二人で大口駅まで見送りに行き、その帰りに駅前のおもちゃ屋さんで大きな鉄砲を買ってもらって、とても嬉しかった思い出がある。また、父はよく往診に行っていた。ある日、何を思ったのかはわからないけれど、僕を車に乗せて往診に行ったことがあり、当時街灯もない真っ暗な田舎の家の前で車の中に一人残され泣いていたら、あとがき長男土屋広明218
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