【絆】土屋利紀の肖像
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幾たびの困難があった利紀の人生の中で、最大の誤算とも言えるのは妻、多恵子の急死だった。「人生最悪の年利紀愛用の手帳には見聞きにわたって大文字でこう記されている。その時刻に多恵子は心筋梗塞で他界した。利紀が多恵子の計報を聞いたのは、乗馬の外乗りツアlで出かけていたスペイン滞在の最後の夜だった。急ぎの帰国便を探したが、結果的には事前に予約していた飛行機が一番早かった。利紀がスペインへ出発するとき、多恵子は玄関まで珍しく見送った。家の手伝いをしていた木村美鈴(五十八歳)はその姿を見て思った。「いつもは見送らないので今回だけは:・」多恵子は木村たちと死去する数日前に一緒に東北を旅していた。多恵子は元気そのもので、リンゴ狩りなどを楽しんだばかりで、友人、知人に二十キロのリンゴを送っていた。同月但日夜叩時」ユートピア第六章福祉編169

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