眼科とホテル。一見すると想定外、ミスマッチのように思える。ホテルを開業する前、利紀はアメリカの医療事情についての視察旅行をしている。その中で、ホテル一体型の病院があった。「これにヒントを得たと話していました」秘書の出水典子は言った。現在、ホスピスは「緩和ケア」と呼ばれているが、本来は「客を温かく持てなす」意味だ。今日のホテルと病院の原型になっている。もちろん、そこには事業欲もあった。宮崎県は観光立県であり、ホテルは必要だ。ただ、豪華ホテルではなく、当時まだ少なかったビジネスホテルにしたことに、利紀の先見性があった。自動チェックインも早々と導入した。沖田は「それだけではない」と言った。「緊急時の避難病院にしたいとの考えもありました」どういうことか。仮に眼科医院が地震や火事など不慮の事故、災害に遭ったときに、入院患者をこのホテルに移すということだ。このほかには、従業員教育の現場にするとの思惑だ。まさに「客を温かく持てなす」という実地訓練の場だ。「病院では『お大事に』は言えても、なかなか『ありがとうございます」とは言えない」利紀は常々このように語っている。利紀は、ホテルは「ありがとうございます」というサービス業の最先端と思っていた。「手術がうまいだけでは患者さんはたくさん来ない。病院全体が患者さん一人一人を大事にする心がなくてはいけない」現在、沖田のほか慶明会の常務理事の牧野剛も、一時期ここで修業させられた。110
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